こんにちは、教習指導員のひろくん(@hirokun_index)です。
このブログは、自動車教習所の困りごとについて解説しています。
今日卒業検定でした。
補助ブレーキを1回踏まれたけど合格でしたよ!
SNSやネット掲示板を見ていると、上記のような書き込みを目にします。
最初に結論を言うと、補助ブレーキや補助ハンドルはおろか、口頭での補助も「検定員補助」といって検定は中止になってしまいます。
ですから、補助ブレーキを踏まれたのに検定合格というのは通常ありえない話ではあります。
しかし、SNS等でのこの手の書き込みは1つや2つではありません。
どうしてこのような現象が起きるのでしょうか?
今回は、補助ブレーキでも合格の謎に迫ってみたいと思います。(少し大げさ)
補助ブレーキは検定員補助で中止(再確認)
大切なことなので、再確認の意味でもう一度言います。
我々技能検定員(以下「検定員」)が、検定中補助ブレーキを踏むと「検定員補助」といって、検定がその時点で中止になってしまいます。
これは、紛れもない事実です。
補助ブレーキだけでなく、口頭での補助ですら検定中止になってしまうのですから、我々検定員は、基本的に補助ブレーキや補助ハンドルはギリギリまで我慢します。
それは、検定員は合格してほしいと思いながら採点しているからです。
検定員が検定を担当するときは、落とそうと思って同乗しているわけではありません。
できれば合格してほしいなあと心のなかでつぶやきながら乗っているのです。
そのくらい、検定員である我々は「補助ブレーキ」や「補助ハンドル」は、デリケートに扱います。
何なら「リーサル・ウェポン」くらいの扱いですから、検定員補助という伝家の宝刀をそう簡単に、またみだりに使用することはありません。
にもかかわらず「補助ブレーキされたのに検定に合格しました」的な書き込みをみると、「えっ」となるわけで、それが今回、この件を記事にしようと思ったきっかけでもあります。
ただ、「補助ブレーキされたのに合格した」というSNSやネット掲示板の書き込みも、検定業務に携わる検定員として思い当たるフシはありますので以下説明していきます。
「補助ブレーキでも合格」してしまう事象とは?
では、助手席の検定員に補助ブレーキをされたにもかかわらず検定に合格してしまうというのは、どのような場合にありえるのでしょうか?
実際にそうした書き込みをされている方の実際の検定の様子を見たわけではないので、推定や可能性の話も含みますが、私自身の経験を交えて解説していきます。
①ならし走行中の補助ブレーキの可能性
検定では必ず「ならし走行」を行います。
ならし走行とは、一旦採点を中断してミスも不問とするから、検定車両に慣れたり、緊張をほぐしたりしてね、という時間のことでどの教習所でも必ず行います。
私の勤める教習所では、例えば路上の検定の場合、教習所内のスタート地点から路上に出て最初の信号交差点までが、ならし走行になります。
そして私自身も検定を担当していて、このならし走行の段階で補助ブレーキをかけたことがあります。
これをもって「補助ブレーキを踏まれたのに合格」と受検者が思ったのであれば、こうした書き込みにも信憑性はあるでしょう。
ならし走行中は、採点はしていませんので補助ブレーキをされても合否に影響はありません。
②受検者と検定員がほぼ同時にブレーキを踏んだ可能性
これはかなりレアなケースですが、私も検定員として体験した事象です。
ある危険な場面に遭遇したときに、もうこれ以上は補助ブレーキを我慢できないと判断して、まさにブレーキをかけようしたその時、私より一瞬早く受検者がブレーキをかけたのです。
微妙な事象ではありますが、この場合は、検定員の補助ブレーキより先に受検者がブレーキをかけているので中止になることはありません。
検定員としては、かなりヒヤヒヤするので、こんなギリギリのブレーキングはやめてほしいんですけどね。
③泥はね運転を防止するための補助ブレーキは問題なし
検定のときに、水たまりなどで泥や水をはねて他人に迷惑をかけそうになった場合、実害を避けるために補助ブレーキを踏むことは許されています。
もちろん、検定員が泥はねを防止する措置をとった時点で受検者は減点にはなるのですが、泥はねを防止するための補助は認められているのでこれで検定中止にはなりません。
④検定員が間違って補助ブレーキを踏んだ可能性
例えば、検定員が姿勢を整えるため座り直す際に、フットレストと間違って補助ブレーキに足がかかってしまった可能性も否定はできません。
ま、本当にあったとしたら検定員としてはかなりお粗末なミスではありますが。
⑤私の勤める教習所がある都道府県では中止になるけれど…
次の2つの場面を想像してみてください。
- 相手側に一時停止がある十字路を通過しようとしたところ、相手が一時停止を無視して突っ込んできた。
- 信号交差点を青信号で通過しようとしたときに、赤信号を無視して横断歩道を歩行者が横断してきた。
この2つの場面は、両方とも自車にそれほどの落ち度はありません。
しかしながら、このように明らかに相手の不適切な行動で、事故になりそうな場面でも、検定員補助を適用して検定中止になります。
少なくとも、私の住む都道府県の教習所ではこのような運用をしています。
ただ、日本全国47都道府県すべてを調査したわけではないので推測の域は出ませんが、もしかしたらこういう場合は検定員補助を適用しない都道府県があるかもしれません。
ただ、いずれにしても検定前の説明の時間には、こういった場合には試験を中止にしますと行った中止項目の説明は必ずしますので、それをきちんと聞いておきましょう。
明らかに間違った情報に注意
今回この記事を書くに当たり、さまざまなSNSや掲示板などでの書き込みを見ました。
もちろん、正しい情報もたくさんありとても参考になりましたが、同時に、検定員が見た場合すぐに間違いと分かる間違った記述も多く目にしました。
路上では3回までブレーキを踏まれてもOKで、4回だと不合格になります。
これは完全な間違いです。「エンスト」や「切り返し」といった減点とゴチャ混ぜになっています。
検定員の資格を持った教習所職員がこういった勘違いをすることは絶対にありませんから、この記述は教習所関係者ではない人が書いたものと思います。
補助ブレーキと検定の合否に直接的な関連性はありません。
「補助ブレーキ=検定員補助」で検定中止となりますからダイレクトに合否に影響します。
繁忙期は、教習生も多いので、補助ブレーキくらいは合格させる。教習所も商売だから。
もしそんな風に思わせてしまっているのなら、我々教習所関係者の責任です。
しかし、実際こんな事があったとしたら、その教習所自体にかなり重いペナルティが課せられるので、にわかには信じがたいです。
教官によって判断や基準は違います。
これも間違いです。検定員は、検定の際は採点基準に則って採点をしています。
我々検定員が、検定の際最も気を使うのは、技能検定の公正さや公平性です。
まとめ
いかがでしたか?
確かに、私自身も技能検定中に補助ブレーキを踏んだことは何度もあります。
その中にはもちろん、ならし走行中や実害を回避するための検定中止にならない補助ブレーキも存在します。
ただし「検定中に補助ブレーキを踏まれたのに合格」は、少々表現としては誤解を招きそうな気がします。
ですから今回検定員の端くれとして、少しでも正しい情報がお伝えできればと思い、「検定員補助」を記事に取り上げました。
例外は存在しますが、補助ブレーキは検定員補助で中止になってしまうことは厳然たる事実です。
教習所を卒業して免許を取得したら、誰も補助ブレーキをしてくれませんし、事故をしたときの責任はドライバー自身が負わなければなりません。
そのことを忘れずに、教習所に通っている(これから通う)人は、程よい緊張感と責任感を持って教習に臨んでみてくださいね。
最後まで読んでいただいて、本当にありがとうございました。
技能検定はとても緊張するものです。補助ブレーキを踏まれないように緊張を和らげて検定に臨んでくださいね。
自動車教習所は試験や検定で緊張するシーンが多いです。空き時間を有効活用して気分転換しましょう。
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